「その男」
志の吉さんと電話で話すうち、期せずして「その男」の話題になった。
かつて私の田中塾にも参加した「その男」は最近出版社を辞めて落語家になってしまった。
立川流に40歳過ぎで入門・・・たいていのことでは驚かない私も絶句した。
仕事やプライベートでたくさんの落語家と知り合いになった。
しかし知り合いが落語家になったのは初めてのことだ。
このちがいは大きい。
「勇敢なんだか、バカなんだか」
ほとんどの男たちは、増やし続けて生きている。
自らの経験を増やし、知識を増やし、友人を増やしカネを増やす。いつもその方法を考えている。
ある者たちは飽きたらずに国家資格を目指し、海外で経営を学ぶ。
学歴であれ、収入であれ、ブランドであれ、プライドであれ、高めることしか知らない。
そしてほとんどの男たちは積み上げた過去の成功に縛られる。
優秀な男たちが動かす大企業は前年比に縛られる。
最も優秀な男たちが動かす国は成長神話に縛られる。
「その男」もいままでのように仕事すれば稼げたはずだ。
でも彼はこれまでの実績や収入、過去を40歳を過ぎてから捨てた。
「その男」を見て思った。
上着を脱ぎ捨てるように「過去を捨てる男」は贔屓目抜きにカッコイイのである。
積み上げ男がいくら頑張っても彼にはかなわない。
「その男」から「還暦で真打ちを目指します」とメールが来た。
では私も70歳でゲストに呼ばれることを目標にしよう。またひとつ人生の楽しみが増えた。
周りの人間に彼のことを話すとみんな元気になる。
私も「彼の無茶を思えば」たいていの苦労など苦労だと思わなくなった。
いつの世も意表を突くバカは周りを明るくする。
とうとう「その男」の人生初高座の日が近づいてきた。観に行かねばなるまい。
もちろん応援ではない。
スーツを着物に着替えた「勇敢な男」の晴れ姿をこの目で見たいからである。
しかし40過ぎて初舞台とはマジで泣かせるぜ。
初舞台。がんばれ、がんばれ、がんばれ。


