あのときの小学生
高校生だったころ、いつも通っていた近所の喫茶店。
いつも隅の席で本を読んでいた想い出の喫茶店。
気さくで人のいいマスターとママさんの居心地のいい店。
あのころ小学生の息子がいて、帰ってくると私まで「お帰り」と声を掛けていた。
東京に出てきたあとも、故郷に帰るとあの喫茶店に行っていた。
会計士に合格したとき、自分の親の次に喜んでくれたのはあの店のママさんだった。
講師の仕事をやると話したときも「田中くん、人前で話せるの?」と真顔で心配してくれた。
その喫茶店は残念ながらもう無い。
故郷がひとつ消えてしまった。ロウソクの火がふっと消えるようにあっけなく。
あのとき小学生だった息子は、その後、会計士の試験に合格した。
ママさんが
「うちの息子も田中くんにあこがれて会計士を受けて、とうとう後輩になったんだよ!」
と嬉しそうに話していた。前段はともかく、私まで嬉しくなった。
彼の合格ももちろんだが、嬉しそうなママさんの様子が嬉しかった。
それもずいぶん昔の話しだ。
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不思議なことが起こった。
人の縁がつながって、あの小学生だった息子からメールが届いたのだ。
いまは名古屋で会計士として独立開業しているらしい。
こんなメールが名古屋のホテルから感慨深く街を眺めた翌日に届くとは。
不思議なものだ。
それにしても、緊張しているのか、それとも文章が下手なのか。
なんという味もそっけもない事務的なメールなんだろうか。
しょうがない、許してやろう。
私の中で彼はまだ、「ただいま!」と帰ってくる、ランドセルを背負った小学生のままだ。
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