続・ウィーン旅行記:猿の惑星
私たちが朝起きてから夜寝るまでに起こる97%は「想像可能」な出来事である。
たとえば地下鉄の車中、不機嫌に黙りこくっているカップルを見れば、すこし前のケンカを想像することができる。
たとえば大騒ぎの街中、消防車が集まってごった返す火事現場に出くわせば、出火原因のいくつかについて想像を巡らせることができる。
しかし、人生にはまれに、「想像不能」なことが起こる。
かつて私との待ち合わせに遅れてきた友人Tは、これ以上ない晴天のもと、黒い折りたたみ傘を差してやってきた。
なぜこんな快晴に折りたたみ傘なのか。ぜんぜん分からない。日傘でもあるまいし。
「なんで傘差してんだ、おまえ?」
そう訊ねた私に、彼の答えはふるっていた。
「乾かしてんだよ」
・・・・これぞ想像不能な回答というものであろう。
絶句し感動した私は、20年以上経ってもあの回答を忘れられない。
おおっと、話がいきなり脇道にそれてしまった。
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たったひとり、その孤独の理由も知らずに空港に立ちつくす私。
これぞ「想像不能」な状況の典型である。
言われたとおりに乗り換え、目的空港に着き、荷物を手にして外に出たはずである。
なぜ同行者(講師+参加者一同)が誰もいないんだ。
いちおう講師で来たはずなのに、なぜ迎えがいないんだ。どう考えてもヘンだ。
おかしい。絶対におかしい。
それに加え、私の頭を混乱させる重大な要因があった。
それをここに書くのはあまりに恥ずかしい。
しかしこの事実を書かないとドキュメントたり得ないので書くことにしよう。
到着のときまで、私はウィーンを国だと思っていたのである。
それなのに空港に着くやいなや飛び込んできたのは
「Welcome to Austria!」の看板。
それを見た私は、思わず心の中でこう叫んでしまったのである。
「やべ! ウィーンじゃなくてオーストリアに来ちまった!」
呆然、困惑、混乱、焦り。
あらゆる感情が全身を包みつつ、時間だけは刻々と経過する。
もうこうしていても事態は一向に改善されないことだけはたしかだ。
よくよく行程表をみると、たしかに指示された飛行機でここまできている。
もしかしてやっぱりここはウィーンではないのか?
どう考えてもウィーンだ。
一見オーストリアに見えるここはきっとウィーンなんだ。
しかたがない。こういうときは一歩踏み出すしかない。
私は意を決し、難しい顔つきで(たぶん)、戦場に舞い降りた兵士の気持ちでタクシー乗り場に向かった。
<つづく>
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